先週末を境に、急に暖かくなり日中もエアコンを入れず、夜は毛布一枚で寝ている。マンションの隣の家の庭には早咲きの桜が満開で、そろそろ各地から桜の便りが届くだろう。桜が満開になると、毎年出掛けている室見川沿いの桜並木の土手を愛犬と散歩しよう。
先日の日曜日、以前勤めていた会社の後輩から帰省するので飲みに行かないかと誘われ、20年ぶりに二人で酒を飲んだ。一緒に勤めていた会社が倒産した後、彼は東京で再就職し今では博多弁を忘れてしまったのか、しっかり東京人になっていた。彼は僕に会うなりこう言った。
「ご無沙汰しています。年取りましたね~」
「そりゃ~年取るやろ~。いらん世話や!」
彼も加齢と地球の引力に抗うことができず顔も弛み、当時と比べると随分おっさんになっていた。そして久しぶりの再会で積もる話に花が咲き楽しく酒を飲んだ。
現在、彼はネット関係の会社で働いており、中古のマンションを購入したことや成長した2人の子供のこと、震災時に帰宅難民になり何時間もかけて歩いて自宅に戻ったことなど、彼の話は多岐にわたった。中でも印象に残った話は趣味のキャンプの話で、休みになると冬でも薪ストーブを車に積みひとりでキャンプに出掛けるという。
「お前、冬でも一人でキャンプに行くとや?」
「はい。マンションが2DKなんで4人家族だとかなり狭いんですよ。だから窮屈な生活から解放されるため休みの日は1人でキャンプに出掛けるんです」
「1人で?家族と一緒に行けばいいやん」
「家族はキャンプに行きたくないと言うもんで…」
彼は本格的に道具を揃えてキャンプをしているようで、キャンプ道具で部屋はもっと狭くなってしまうだろうと思った(笑)。
そして昼の12時から飲み始め、2軒目は中洲の川沿いにあるテラスで陽にあたりながら一杯やり、夕方近くに彼と別れた。
勤めていた広告会社が倒産し、一緒に働いていた後輩達は皆それぞれ他の広告会社に再就職した。数年が立った頃、親しいテレビ局の方からこう言われた。
「お前の指導が良かったのか、お前の元部下は皆優秀でしっかりやりよるぜ!」
「そうですか。それは良かったです」
先日一緒に飲んだ後輩も縁もゆかりもない東京で、しっかり根を下ろし逞しく生きているようだ。
肋骨を骨折しリハビリを受けるため入院するお袋に美味しい物を食べさせようと、入院前日がひな祭りだったのでちらし寿司の出前を頼んだ。
「病院食は不味いやろうし、今日はひな祭りやけん、ちらし寿司を頼んだばい!」
「はぁ~。明日から病院食やね~」
深くため息をつくお袋に、今月末のお袋の誕生日までに退院して旨いもの食べに行こうと励ました。そう言えば以前、僕も入院して病院食を食べたな~。
20年ほど前、明け方に胸が苦しくなり目が覚めた。どうも息を吸い込む時に胸が痛く苦しい。翌朝、自宅には僕一人だったので歩くこともままならなかったが、胸を抑えて近くの内科クリニックに向かった。
「今日はどうされました?」
「明け方から胸が苦しくて息を吸い込むと胸が痛いんです」
直ぐに心電図とレントゲンの検査を受け先生からこう言われた。
「随分、脈が乱れているので心筋梗塞の可能性があります。私が連絡を入れるので、直ぐに別の循環器科で精密検査を行って下さい。そのまま入院することになると思います」
「えっ!?そのまま入院!?」
「心筋梗塞は早い治療が何よりも大切です。命にかかわるので救急車を呼びましょう!」
「救急車!?先生、せめて着替えだけでも自宅に取りに戻りたいんですが…」
「それではタクシーを呼びましょう!兎に角、急いでください!」
何やら訳も分からず、タクシーで自宅に戻り3日分の着替えを取り、クリニックから紹介された病院に向かうと、玄関には車椅子に手を掛けた看護婦さんが待っていた。
「急ぎましょう。早く車椅子に乗ってください!」
精密検査の結果、僕は心筋梗塞ではなく心膜炎と診断された。心膜炎は心臓を覆う膜にウィルスが侵入し炎症を引き起こしている状態で、さらに悪化すると心臓の筋肉に炎症が広がり心筋炎になるそうだ。先生からは2週間入院し24時間抗生剤を点滴すると言われ、僕はそのまま入院することに。病院では晩酌することもできず、プラスチックの気の利かない器に盛られた冷めた病院食を食べた。
「はぁ~。これが病院食か…旨いものが食べたいな」
しかも部屋は個室が空いていなかったので4人部屋で、夜は同室の患者の鼾でほとんど眠ることはできなかった。退院前日に個室が空き個室に移り1日だけぐっすり眠ることができた。
お袋も個室が空いていなかったので2人部屋に入院している。不幸にもお袋と同室の患者さんはお袋の鼾で眠れないかもしれない(笑)
一緒に暮らす高齢のお袋の世話を兄弟で少しでも分担するため、数年前から連休にお袋はショートステイのため妹宅に出掛けている。先週の連休もいつものようにお袋は妹宅に出掛け、お袋のいない休日をのんびり過ごしていると、突然、妹から電話が入った。
「兄ちゃん、お母さん昨日の晩に転んだんよ。胸をかなり痛がるけん、病院に連れて行ったら肋骨が4本折れとった…」
「えっ!?、マジ!?どこで転んだとや?」
「お風呂に入ろうと、リビングの椅子から立ち上がって体の向きを変えようとしたらバランスを崩して転んだんよ」
お袋は妹宅で新型コロナに2回感染し、しかも転んで肋骨を折るのはこれで2度目だ。
「お前ん家は呪われとるっちゃないや?お祓いに行ってこい!」
「ごめん…。病院で入院を薦められたけど、お母さんは入院はせんて言うけん、連れて帰ってきたとよ」
連休最終日、お袋を迎えに行くと、妹に体を支えられておぼつかない足取りでお袋が出てきた。入院していないのでもう少しは動けるだろうと思っていたが、お袋は殆ど動くことができず、車に乗せようと介助すると、大きな悲鳴を上げた。
「あ~、痛たたたっ~!もうちょっと優しくしてよ!」
「全く力は入れとらんばい!」
お袋を心配し状況説明と介助の手伝いのため甥っ子も車に同乗し自宅へ戻った。
甥っ子の話によると、妹宅では動けないお袋を皆で優しく介助していたという。しかし僕は寝たきりにならないよう、食事やトイレなどは自分で頑張ってやるようにお袋に伝えると、痛がりながらもお袋は自ら動いていた。そんなお袋の姿を見て甥っ子は驚いていた。
「へ~、お婆ちゃん動けるったい。全く動けんと思いよった」
「優しさから何でもしてやると、すぐ甘えて動かんたい!寝たきりにならんごとちゃんと動いてもらわんと…」
しかしこのまま自宅で生活してもきっと弱るだけだろうと考え、お袋の通うデイサービスに相談すると、デイサービスの母体である整形外科を紹介してもらった。翌日、紹介してもらった整形外科を受診しリハビリのためのリカバリー入院の希望を申し入れると、現在は満床で一週間後に可能だというので予約を入れた。
今週、これも「人生の修行」と考え、あまり動けないお袋の介助いているが気が重い。
「はぁ~、最近は随分修業が多いな…」