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2026年01月30日

若い頃はよくラーメン屋に通っていたが、年を重ねるにつれてあっさりしたものを好むようになり、次第に足が遠のいていった。

年末年始は和食が続いたので、ふと「久しぶりにラーメンが食べたい」と思い、近所で“安さが売り”のラーメン屋へ向かった。

これだけ物価が上がっているので、さすがに値上げしているだろう──そう思いながら店に入った。

店の扉を開けた瞬間、ふわっと豚骨の香りが鼻をくすぐる。

入口横にある食券機で金額を確認すると、表示されていたのは以前と同じ価格で

ラーメン290円。

「えっ!?まだ290円でやってるんだ!」

今ではスーパーやコンビニで売られている高めのインスタントラーメンよりも安い。

この店のラーメンは決して“絶品”というわけではないが、スープはあっさりとシンプルで、麺は昔ながらの細麺。当然チャーシューとネギも乗っている。

さらに、豚骨ラーメンに欠かせない紅しょうが、すりごま、おろしにんにくは入れ放題。

しかも注文してからラーメンが出てくるまでの時間は、わずか1分ほどと早い。

客層は驚くほど幅広い。

食べ盛りの学生から、年金暮らしの高齢者まで、本当にさまざまな人が訪れる。

部活帰りの学生たちは決まって替え玉を頼み、100円の替え玉を追加しても合計390円。

さらに、ラーメンに餃子とライスが付いたラーメン定食は驚きの580円だ。

店の奥では、大きな寸胴にたっぷりの豚骨が入り、スープがぐつぐつと炊かれている。

以前、友人は「あれは豚骨じゃなくて野良猫の骨やないと?だけん安いったい。豚骨じゃなくてニャン骨やな」と冗談を言っていた。

この店は福岡で数店舗を展開しているが、どの店舗でも同じ290円という価格を守り続けている。

今のラーメンの平均価格はいくらなのだろうか。

2025年のデータでは、全国のラーメン平均価格は723円。

10年前と比べると150〜200円ほど値上がりしている。

値上がりの理由は、材料費の高騰、光熱費に物流費、さらに人件費の上昇だ。

こうした要因が重なり、ラーメン業界は“値上げせざるを得ない状況に追い込まれている。

福岡は全国的に見てもラーメンが安い地域だが、それでも700円程度が一般的。

その中で290円は、もはや“昭和の置き土産”のような価格だ。

薄利多売と言えばそれまでだが、それでも290円を守り続けるには理由があるのだろう。

常連客が毎日でも気軽に通えるように、財布に優しい価格にしているのだろう。

店は客の生活を知っており、簡単には値上げできないのかもしれない。

利益よりも、客の日常の暮らしを守ることを選んだこの店。

これからも頑張って価格を維持してほしい。

この日、いつもの290円のラーメンに100円で追加のチャーシューを注文し合計390円。

490円のチャーシュー麺より肉の量は若干少ないが、僕には価格も量もちょうどいい。

帰り道、猫がじっとこちらを見ている。

その目は、何か言いたげだ。

「まさか…お前の仲間たちが…!?」

猫は静かに立ち去った。

……いや、考えるのはやめておこう。

2026年01月23日

大学の夏休みに、アメリカでホームステイを経験したことがある。

あれから約40年という月日が流れたが、あの夏の日々は今も色あせることなく、胸の奥で静かに息づいている。

ホストファミリーは、ご主人のラリー、奥さんのダン、そして当時5歳ほどだった男の子のセス。

初めて会ったとき、僕は少し緊張していたが、彼らはまるで家族の一員のように温かく迎えてくれた。

家の周りには草原が広がり、夜になると静寂が耳にしみるほどだった。

闇に舞う蛍の幻想的な光、手を伸ばせば届きそうな満天の星。

その景色は今も鮮明に思い出せる。

彼らはたくさんの思い出を僕に与えてくれた。

夜中に起こされて草原に出掛け、月明かりの下で見たシカの群れ。

キャンプをしながら向かった雄大なナイアガラの滝。

どれも彼らの優しさと結びつき、僕の人生の宝物になっている。

日本に戻り、ホストファミリーにお世話になったことを親に話すと、お袋はすぐにお礼状を書いて送った。

その手紙がきっかけで、お袋とダンは文通を始め、二人はペンフレンドになった。

年に2度のやり取りは、まるで遠く離れた親せき同士の季節の挨拶のようだった。

筆不精の僕は一度も手紙を書かなかったが、お袋が嬉しそうにダンの近況を話す姿を見るたび、心のどこかで「いつか僕も書かないといけないな」と思っていた。

昨年、お袋が天国へ旅立った2か月後、お袋宛にダンからクリスマスカードが届いた。

封筒を開けると、ぎっしりと手書きの英語が並んだ手紙が添えられていた。

「うわ〜、どうしよう…」

そう思いながらスマホで手紙を撮影しAIで翻訳すると、そこには変わらぬ温かさと、僕の近況を気遣う言葉が並んでいた。

「お袋、ダンから今年もクリスマスカードが届いたよ。お袋が天国に旅立ったことを伝えんといかんね」

そうつぶやき、そっと手紙をお袋の遺影の前に置いた。

クリスマスまで時間がなかったので、僕は日本語で手紙を書き、AIに英訳してもらった。

その手紙にクリスマスカードを添え、アメリカ・ペンシルベニアに暮らすダンへ送った。

手紙の最後には、僕のパソコンのEメールアドレスを書き添えた。

今月に入り、無事に届いたか気にしていると、パソコンにダンからメールが届いた。

メールはスパム扱いされ、迷惑メールフォルダーに入っていた。

“Hi! I am sending this email to see if you receive it.”

すぐに返信したが、その後10日ほど返事はなかった。

さらに2度メールを送っても返事がない。

きっと僕と同じように迷惑メールに紛れているのだろうと思い、別のGmailアドレスから再度送った。

そして数日後、ついにダンからのメールが届いた。

“Hello!!! I was so happy to hear from you.”

その文字を見た瞬間、ホッとすると同時に胸が熱くなった。

メールにはお袋への哀悼の言葉、僕との再会を喜ぶ気持ち、そして家族の写真が添付されていた。

ペンシルベニアとの距離がぐっと近くに感じられた。

40年前の思い出が、一気に現在へとつながった瞬間だった。

お袋がつないできた手紙のバトンは、今、僕の手に渡った。

ホストファミリーとの絆は、これから僕が受け継いでいくことになる。

きっとお袋はそのために、長い間ダンと手紙を交わしてくれていたのかもしれない。

そう思うと、すべてが奇跡のように感じられた。

あの夏の思い出の続きが、これからまた始まる。

2026年01月16日

一緒に笑い合った友人が、突然この世を去った。僕より二つ年下で、大学時代からの大切な友人の一人だ。みんなから「きっちぇ」と呼ばれていた。

1月10日の夜、彼の奥さんから突然訃報が届いた。あまりに急で、言葉が出なかった。知らせを受け、家人とともに安置されている葬祭場へ向かい、静かに横たわる彼に手を合わせた。その姿はまるで眠っているようで、現実として受け止められず、涙も出なかった。

奥さんによれば、12月23日に急に苦しくなり救急車で病院へ運ばれたという。肝臓が悪いようでICUで治療を受けていたが、今日、帰らぬ人となった。わずか2週間の出来事だった。以前患った悪性リンパ腫が再発したのかもしれない、とふと思った。

彼との付き合いは約40年。思い出は数えきれない。

学生時代は毎日のように顔を合わせ、夜になれば自然と集まっては、夜更けまで酒を飲み、騒ぎ、語り合った。若さと勢いだけで生きていたあの頃、彼はいつもそばにいた。

酔いつぶれて真っ先に眠ると顔に落書きされるのが恒例で、彼はいつもその標的だった。本人は気づかずそのまま帰り、翌日「なんで誰も教えてくれんやったと〜」と笑いながら怒る姿が、今でも鮮明に思い出される。

また、カラオケで彼が熱唱している間に友人たちがこっそり部屋を抜けて、気づけば彼一人。代金を払う羽目になり、持ち合わせのなかった彼は免許証を預けて帰り、翌日支払いに行ったというエピソードもある。

数年前、うちに遊びに来て一緒に飲んだ帰り、彼は「電車で帰る」と言い張り、自宅とは逆方向の最終電車に乗り、眠ってしまったそうだ。終点で駅員に起こされ、結局タクシーで帰ることになり、僕の家から帰る金額の5倍も払ったという。「なんで逆の方向に乗ったんやろう」と苦笑いしていた。

社会人になってからは会う頻度こそ減ったが、長い休みには旅行やキャンプに出かけ、彼の結婚式では余興を行った。最近では年に二度ほど会っては、昔と変わらない調子で酒を飲み、くだらない話をして笑った。

仕事では苦労も多かったようだが、彼は失敗談を明るく語り、周りへの気遣いを忘れない優しくて繊細な人間だった。誰かが困っていれば自然と手を差し伸べ、場の空気が悪くなりそうなときはいつも和ませていた。そんな彼の優しさに、僕は何度も救われた。

突然の別れは、ある日ふいに訪れる。

昨年もうちで一緒に酒を飲んだが、1年後に彼がいなくなることなど想像もしなかった。最近は身近な別れが続き、また一人大切な人を失った。残された彼の家族のことを思うと胸が痛む。どうか、彼の分もしっかり生きてほしい。僕もできる限り力になりたいと思っている。

1月12日の葬儀の前、学生時代の写真を見返した。顔に落書きされた彼の写真があった。思わず笑い、そして涙があふれた。

「きっちぇ、本当に楽しかったな…。何も心配せんで、天国でゆっくりしてくれ。いずれそっちで楽しく酒を飲もう。」

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